ソーラーバッテリー

日本でもっともオフグリッド・車中泊ソーラーバッテリーシステムにたけている技術ノウハウの宝物庫

ディープサイクルバッテリーを使わないほうがいい理由

M27MFは安易に使わないほうがいい
 エアコン運用の実験ではディープサイクルバッテリーM27MFを使用した。M27MFなどのディープサイクルバッテリーはこのような繰り返しの家電使用では推奨されるのだが、実際は運用の際に落とし穴がある。
 
もともとM27MFなどはメーカー専用の充電器(2万円ぐらいする)によるAC100V経由での16V充電が必要とされており、今回のPWMコントローラーではそこまで電圧が出せない。設定しても14.9Vが限界であり、そこで充電が止まるので満足な充電ができない。
 
M27MFのメーカーのAC Delcoでは専用充電器を販売しているが、AC100Vの家庭用電源のみである。

他社の充電器で同等の充電ができる機種は以下である。 

 そのため、中途半端な電圧の充電を繰り返して運用を続けると劣化し短期間で廃棄に至るという報告が多い。つまり、複数のM27MFをつないで大規模使用するという想定でもともとメーカーは作っておらず、レジャー船舶に1台、充電器で満充電したものをその都度載せてつないで、また自宅で充電してね……という使い方で売っている。

 
M27MFをソーラーシステムで運用するには16V限界ぎりぎりの充電ができるコントローラーを使用する必要がある。高価なMPPTコントローラーで設定可能な機種に限りクリアできる
また、M27MFといえど、インバーター運用ではギリギリ容量を使い切る運用はほとんどできないので、やはりいいところ50%のレベルで使うことになる。それならば、自動車用バッテリーのほうが13V以内で満充電可能なのでPWMコントローラーで運用するときは楽だということになる。またコストも安い。
 
世間の動画ではこうしたシビアな運用の実証、長期間運用の報告はほとんどないので、あれだけ見てできると思い込んだら危険だということを知っておいてほしい。
 

バッテリーバンク構築に必要な容量の考え方

 
 
■40B19バッテリー
主に軽自動車で使われる小さいバッテリー。それでも8kgの重さがある。これぐらいが女性でもなんとか運べる大きさと重さ。記号の最後にある(RとL)はバッテリー端子の位置を表す。Rだと正面のこの位置から見て右側にプラス端子がくる。Lだとその逆になる。40Bの「B」は写真のバッテリーの端子の「太さ」の規格で、BとDがある。Bは小さいほうで、Dはトラックやバスとかの大型のバッテリーに使われる太い端子で、それによって取り付ける金具のサイズが変わるので注意。
DSCN8990.jpg
自動車バッテリーはJISで規格化されている。そのため40B19の場合はバッテリーの容量は公称で29.8Ahぐらい。約30Ah。
ということは、12V×30Ah=360Whの家電が1時間使えるということである。
 
【Whは「1時間当たりの消費電力W」である。
その家電を1時間使うとなくなる電気の量だと思えばいい。
ただ、実際はその半分ぐらいが限界なので360Wの家電なら理論上は30分ほど使える。
 
■バッテリーの容量から使える家電の知り方
家電の消費電力(W)を一回、Ahに直してみる。
 
W=V(ボルト・電圧)×A(アンペア・電流)なので、算数的に
A=W÷V
これを覚えておく。家電の消費電力(W)を使用する電圧(今回は12Vのバッテリーなので12V )で割ると
消費される電流がわかる。すると、バッテリーの容量とみあっているかわかる。
 
180W(1時間180W消費する意味)の電動工具のドライバーの場合
180Wh÷12V=15Ah使う。
 
バッテリーの容量は30Ahだよね?…ということは余裕で使える。
 
■どれだけの時間使えるか知る方法
次に、この電動ドライバーは1時間15A消費するのだから
30Ah÷15Ah=2時間はスイッチオンで使いっぱなしにできる「はず」
 
■ということは?スマホはどれだけ充電できることになるの?
小さい自動車用バッテリーの40B19とはいえ、実はけっこう強いんだ。
 
スマホはUSB5Vで1A~2Aだよね。2Aだと短時間でいいね。
 
5Vで2Aだと5V×2A=10Wが1回の充電で消耗する電力量ね。
 
10Wをバッテリーの12Vで割りなおして、12Vバッテリーでは何Ah分か出す。
 
10Wh÷12V=0.8Ah
電動工具と違ってたったのこれだけだ。ということは、
30Ah÷0.8Ah=37.5回 充電できることになる。
 
今回の教材レベルでも災害時、4人家族のスマホでも1人1日6回も自分のスマホが充電できる。
お友達や、近所の人を助けることができ、きっと命拾いするだろう。
 
■バッテリーの電圧
自動車用バッテリーの電圧は国内と欧州で標準値が微妙に違う。
国内の自動車向けのバッテリーは12.6Vぐらいあれば満充電。13Vぐらいなら「いいね」ベストだ。
欧州車はそれより低い。なので欧州車バッテリーは充電電圧も低くしておく必要がある。
ソーラーをつなぎっぱなしで充電すると12.8V、100%充電の13Vぐらいになっていることもある。
だが、13.6Vあたりで今度はバッテリーのほうが限界にきて「水素が発生」してゴボゴボ言い出と危険なので、コントローラーの限界値を設定し充電電圧が超えないようにしておくことも必要。
 
インバーターが動作するための限界
インバーターを接続して使うと、電圧が一気に0.8~1V近く下がる。
インバーターはバッテリーからの電圧がAC100Vに変換できない限界値に達すると保護回路がはたらいて自動的にアラーム音を鳴らしたりして運転ストップを促す。そのままアラーム音を無視しても使えるが、いずれ保護回路が働いて停止する。
 
アラームが鳴るレベルは、だいたい10.8Vぐらいに設定されている。12.6Vのバッテリーの場合、動作した時点で11.6Vぐらいに落ちる。
そのまま使うと、当然、バッテリーの容量は減るわけだから「電流Ah」が減るわけである。
 
■バッテリーの残量の目安
バッテリーの容量は、電圧で推測する。インバーターをオフにして、テスターでプラス端子とマイナス端子の電圧を測定すればいい。あるいは、コントローラーの表示電圧を見る。
 
 
 残 量  【12V】  【24V】   
92%  12.9 25.8
91%  12.8 25.6
91%  12.7 25.4
90%  12.6 25.2
89%  12.5 25.0
89%  12.4 24.8
88%  12.3 24.6
65%  12.2 24.4
54%  11.9 23.8
39%  11.5 23.0
27%  11.2 22.4
13%  10.8 21.6
   0%  10.5
21.0
 
この表からわかるようにインバーターで使用する場合は、11.8V(54%)ぐらいの容量残までが1つのバッテリーの限界だとわかる。つまり消費されたのは100%-54%=46%分だということになる。
 
つまり30Ahの40B19のバッテリーはインバーターとの実運用では、30Ah×46%=13.8Ahほどしか電流を取り出せない
12V×13.8Ah=165Wぐらいの家電は楽に動くが、それ以上になると動作できない場合も出てくるし。たとえ動いても不安定になったり短時間でバッテリーを使い果たすということになる。
 
■自分のシステムで動く家電の一覧をつくる
各家電が40B19、ディープサイクルで人気があるM27MFでどれだけの時間動くのか
簡単にわかるように作った表である。
家電必要バッテリー数一覧
 
バッテリーの下の数字は「動作させるのに必要な個数」である。
1300Wのハイパワーな家電を動かそうとしたら40B19が8個最低いる。それで20分ほどしか動かない。
でも、1300Wのティファールみたいなポットで3分でお湯をわかすことは十分可能だということになる。
 
■使える家電は「本当の消費電力」で決まる
ここで、運用上のテクニックとしてワットメーターで実際に使う家電の使用中の「本当の消費電力」を把握しておけば、バッテリーの限界値以下で動くものであれば使えるわけである。
 
家電のカタログ値は最高のものを表示しているので、実際にはそこまで使わないことも多い。単純にカタログ値であきらめる前に「本当の消費電力」を知ることである。
 
■単純にその家電が使えないとあきらめない
たとえば、1リットルの電気ポットの消費電力のラベル表示は「900W」でも、実際わかしてワットメーターで測定すると800mlのお湯だと「800W」しか使わなかった。さらにわかす水を半分以下に減らすと、700Wぐらいまで下がっていた。
だから、使用する家電のモードを加減すれば使えないはずの家電も使えたりするので注意してほしい。
 
■今回の教材を拡張して6畳用エアコンを動かせるか?
さて、エアコンだが6畳用2.6kW程度の小さなものは、カタログ値では780Wほど使うので大変かと思うが780W消費するのは最初の起動時数分間であり、それ以後は安定期に入り360W以下に電力消費が抑えられるので(温度が変化したら動くだけ)意外にも長時間使うことができるようになってくる。
当方の実験結果ではM27MF、4台の場合、2.6Kwのパナソニックのエアコンが延べ16時間動作した。
1日8時間としても2日間はエアコン生活ができたのである。旧式のエアコンより近年の省電力型のエアコンは長時間運用が可能である。バッテリーを消耗させないためには極力、省電力家電を選ぶことである。
あなたのシステムが電気ポット900W程度のものが使えるようになっていれば、エアコンは楽に動くということになる。
前述の表で見ると、起動時にはM27MF(満充電でコンディション良好なバッテリーで)1台。40B19は5台必要だが、安定期なら40B19、2台分でも1時間は動くことになる。なのであとは、これを使いたい時間分バッテリーを増設し容量アップをすればいい。そうすれば、ソーラーとバッテリーだけでエアコンを長時間稼働させることができる。
 
 
■消耗したバッテリーの電流を「ソーラー充電で復活させる」
家電使用で容量が減ったバッテリーはソーラーで失われた電流分(Ah)が充電されれば、再び満充電となり家電が使えるようになる。
 
■「電力収支表」はつけるべき
効率的で安いコストでソーラーバッテリーシステムを組もうと思ったら、日ごろコントローラーの「Ah積算」でどれだけパネルの発電で電流が1日でバッテリーに充電されたか、一覧や日記にして記録しておく「充電貯金簿」をつけることである。
それと、インバーターにワットメーターをつけた「消費電力積算」の値を記録して、Ahに直し
「差額」を見て「充電と消費の収支」を得れば、
 
「いったい自分が使いたい家電の構成で、どれだけのバッテリー容量と、パネルの発電力が必要か」
わかるようになる。
■長時間、消費電力の大きい家電を使うためには
ということで「長時間」あるいは「消費電力の大きい」家電を使うためには「使用する家電の電流消費」を把握して、必要なバッテリーを「増設」「容量アップ」することになる。

ソーラー用バッテリー選定の基本的な考え方

基本的な方針
1.リチウムイオンバッテリーは鉛バッテリーの半分の重さで軽量かつ、バッテリー容量の大半を使うことができるが、価格が鉛バッテリーの3倍以上で非常に高価なのとBMSによる充電管理が必要なので、一般人には取り扱いにくいため使わない。
 
2.サバイバル環境時に一番手軽に使えるのは、100年以上の運用歴史をもつオーソドックスな鉛バッテリーである。
 
3.鉛バッテリーを長持ちさせる使用方法は「常時満充電状態」であることである。そのため理想的には使用後は速やかにフロート充電レベルまで充電する体制であることが望ましい。
 
4.ディープサイクルバッテリーと自動車用バッテリーの2種類が一般的な選択肢となるが、ディープサイクルバッテリーは最大16Vでの充電プロセスが必要なことが多く、市販のPWMチャージコントローラーでは満充電ができない。ディープサイクルバッテリーを使用するには16V充電が可能なMPPTチャージコントローラーを使用するべきである。
 
5.ソーラーバッテリーシステムでシンプルかつ安価な運用ができるのはPWMコントローラーによる構成であり、それには最大13.6V程度で充電が完了する自動車用鉛バッテリーがいい。
 
6.複数の鉛バッテリーを並列接続することで使用できる電力容量を増やすことができるが、その場合は個々のバッテリーの容量が大きいものを組み合わせることが望ましい。
 
7.車中泊やキャンピングカーなどは、修理・メンテナンス・車検などでバッテリーの積み下ろしが必要になり、大容量バッテリーは重量が重たく取り扱いが大変である。大人一人で抱えられる限界は20キロ程度であり、このためディープサイクルバッテリーの場合M27MF程度、自動車用鉛バッテリーの場合125D31クラスが限界となる。 
 

125D31と40B19並列接続による1500W正弦波インバーターが使用可能かの実験

■使用機材

125D31L 容量72Ah(5時間)メーカー「アトラス社」(韓国製)

40B19L 容量29Ah(5時間)(日本製)

電子レンジ700W(アイリスオーヤマ製)

バッテリーチェッカー(アマゾンで入手のもの)

 

■実験の背景

 鉛バッテリー125D31は自動車用バッテリーで重量20kgとディープサイクルバッテリーM27MFに匹敵する容量かつ唯一大人一人で可搬可能な機種である。これ以上のクラスになると重たく、設置・撤去が常時伴うキャンピングカーなどでの使用は困難である。コストも高い。

 現在、サバイバル時のバッテリー運用シーンとして「多種多様なバッテリーの混在運用」が想定されている。平時においては「同一種類、同一サイズバッテリー」の「並列接続」がセオリーであるが、非常時においては困難であると考えられる。そのため、サイズと劣化状態の違うバッテリーの混在での運用がどれだけ可能かの検証が必要である。

 

■実験1「バッテリー端子に接続するケーブルの太さによるパフォーマンスの違い」

 通常セオリーでは「バッテリー端子には太い銅線ケーブルを接続すべき」となっている。一般的に12Vの運用で推奨されるのは38sqケーブルである。ただし、太すぎて曲げにくく取り扱いが難しい。

 しかし、1500W正弦波インバーターでの運用では、インバーターとバッテリー間のケーブルは太くして電気抵抗を可能な限り下げ、大電流が流せることが望ましい。

 なので、セオリーどおりでの38sqケーブル、ワンランク下げた22sqケーブルでの電池の内部抵抗を測定した。

 

■実験結果

125D31「ナンバーD」

端子直接測定:468 CCA 6.14mΩ SOH 91% 12.74V SOC 94%

38sqケーブル:410 CCA   7.6mΩ SOH 70% 12.79V SOC 99%

 

125D31「ナンバーG」

端子直接測定:469 CCA 6.13mΩ SOH 91% 12.4V SOC 60%

22sqケーブル:365 CCA  7.87mΩ SOH 55% 12.39V SOC 59%

 

ダウン率

38sq:13%ダウン

22sq:23%ダウン

 

■考察 

ケーブルの太さはバッテリーの内部抵抗を上げ、CCA値の低下をもたらした。なのでバッテリーインバーター間の接続ケーブルは許容電流としては22sqで124A(12V換算で1488W)なので十分だが実際は23%ほどバッテリーから流れる電流の損失をして使用しているということになる。

 

■実験2「125D31の2台並列による700W電子レンジの動作」

実験1で使用した125D31Lを2台、38sq、22sqケーブル経由で1500W正弦波インバーターに接続し、家庭用700W電子レンジを最大出力の60Hzで動作させマグカップの水を200mlで1分間加熱した。

 

まず、1台だけで動作させたところ、電圧は12.2Vから9.8Vに低下してアラームが鳴って動作を停止した。

125D31を1台での電子レンジの稼働はできないと判明した。

次に、2台並列にて動作させた。

 

■実験結果

2台並列接続した場合、2台分の容量になるかを調べた。並列時は接続した単一のバッテリーのプラス・マイナスからではなく、相互にプラスとマイナスを両端で接続して利用することが望ましいとされている。測定結果はGのプラスと、Dのマイナス端子で計って812 CCAとなった。38sqケーブル接続時の410 CCA、もう1台の22sqケーブル接続時の365CCAの合算775 CCAよりは上回り、ほぼ2台分の容量を合算したパワーが得られることが確認できた。2台の合算電圧は12.4Vであった。

 

この状態で、200mlのマグカップの水を700W電子レンジを60Hzにて1分間動作させたところ正常に動作した。加熱中電圧は10.7Vまで低下(-0.7V)したが、1分加熱後のお湯は62度であり、十分な加熱が得られた。加熱中の使用電力は1394Wを示していた。実験後の電圧は12.3Vを示し0.1Vの電力消費をした。

 

■実験3「125D31と40B19の並列混在使用での700W電子レンジの動作」

実験2で使用したバッテリーDに、40B19バッテリーを並列接続して、容量が違うバッテリーでの電子レンジ稼働が可能か実験した。

200mlのマグカップの水を700W電子レンジを60Hzにて1分間動作させたところ正常に動作した。

 

125D31+40B19にて端子直接測定:549 CCA 12.3Vであった。

実験後、2台分で

279CCA 10.28mΩ  SOH 28.9% 12.09V SOC32%に低下していた。 

差し引き270CCA分消費していたことになる。

 

■考察

(1)125D1台では消費電力1390Wの電子レンジの稼働はできなかった。2台なら可能である。

(2)125Dと40B19を並列接続して1500W正弦波インバーターを動作させることは可能である。

(3)バッテリーを並列接続してトータル容量を増やせば、高い負荷の電子レンジの動作は可能である。

1390Wの消費電力として115Aが瞬間的に必要と推定される。

(4)インバーター側は10.8Vでアラームが鳴るので容量の半分が使用可能領域とした場合、72Ah+29Ah=101Ahであったのでオーバーしていたようだが、ギリギリ動作したと思われる。